HARVONI®私の実臨床
第4回 患者背景(共存疾患、生活習慣)を考慮したDAAの選択
併用薬の多い高齢患者さんでは、
相互作用のリスクを最小限にできるDAAを選択します。
DAA治療を受ける高齢患者さんの多くは高血圧、耐糖能異常、脂質異常症など、いわゆる生活習慣病を持っており、こうした患者さんでは、薬物相互作用の確認が必要です。
薬物相互作用のうち、併用注意であっても、併用しないことが望ましいのはいうまでもありません。スタチンについては、併用禁忌、併用注意になっているDAAが多いですが、ハーボニーはロスバスタチン以外のスタチンは併用禁忌、併用注意になっていないので、この点で選択しやすい薬剤です。PPIとハーボニーは添付文書にある通り、空腹時に同時投与すれば問題ありません。ハーボニーをPPIと併用した患者さんにおいても添付文書通りに投与されていればSVR率は低下しないことが報告されています(図1)1)。ただし、倍量のPPIが投与された患者さんではSVR12率の低下がみられていたため注意が必要です。
ハーボニーは、朝、起きてすぐに服用できるので、
患者さんの生活習慣にかかわらず、
アドヒアランスを維持しやすい薬剤です。
服薬アドヒアランスについては、患者さんの交替勤務や朝食を摂らないといった生活習慣についても配慮する必要があります。ハーボニーは朝起きたらすぐに服用できるため、飲み忘れが少なく、交替勤務や朝食を摂らない方であっても問題ありません。食前、食後のいずれでも投与できることはハーボニーのメリットの一つです。
全国赤十字病院の実臨床研究で、98.4%のSVR12率が得られました。
99.4%が治療を完遂し、肝機能障害による中止例はありませんでした。
私も参加した全国の赤十字病院19施設による多施設共同レトロスペクティブ研究では、ハーボニーが投与されたジェノタイプ1のC型慢性肝炎、C型代償性肝硬変1461例を集積して有効性と安全性が解析されました2)。
対象には後期高齢者、肝硬変例、肝癌既往例など、条件の悪い患者さんが国内臨床試験よりも多く含まれていましたが、98.4%のSVR12率が得られたことは高く評価できると思います(図2)。
また治療完遂率が99.4%と高く、肝機能障害による中止例は認められませんでした(図2)。これは他の実臨床研究とも一致した知見です3-6)。腎機能に対する影響はみられませんでした(図3)。
肝機能障害はDAAの投与中止に繋がりやすい副作用です。肝硬変の患者さんではDAAの種類によってはトランスアミナーゼの3桁を超える上昇をきたすことがあり、こうした場合は投与の中止を検討することがあります。DAAによる肝機能障害によって非代償化するようなことは絶対に避けなければならず、肝硬変患者さんでは肝機能障害のリスクのあるDAAは避けたいところです。
慢性肝炎、代償性肝硬変で治療期間を変える必要なく
12週間投与できることはハーボニーのメリットの一つです。
線維化ステージがF3の患者さんでは、F1の患者さんに比べて肝薬物代謝酵素CYPや輸送蛋白OATPの量が有意に少ないという報告があります7)。これらの酵素や蛋白が代謝や輸送に関与するDAAもあり、F3からはこうした薬剤による肝機能障害には注意が必要かもしれません。
また、現在、肝炎と肝硬変は、肝硬度や検査値、画像所見を総合して鑑別していますが、慢性肝炎、代償性肝硬変で治療期間を変える必要なく12週間投与であるハーボニーは、誤った診断による過小あるいは過剰な治療を行うリスクがないという点でメリットがあります。
耐性変異に対するバリアが高いソホスブビルの特徴と、NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬を含まないPIフリーとしての特徴、そして多くの実臨床研究で示された有効性と安全性に基づき、今後もC型慢性肝疾患の治療においてハーボニーは重要な役割を担っていくと考えます。
- Tapper EB, et al. Hepatology 2016; 64: 1893-1899
- Tsuji K, et al. J Gastroenterol. 2018; 53: 1142-1150
- Ogawa E, et al. J Gastroenterol. 2017; 52: 845-854
- Iio E, et al. Hepatol Res. 2017; 47: 1308-1316
- Kanda T, et al. Int J Mol Sci. 2017; 18: E906
- Ozono Y, et al. World J Hepatol. 2017; 9: 1340-1345
- Nakai K, et al. Drug Metab Dispos 2008; 36: 1786-1793
全国赤十字病院報告 試験概要
目 的: | 実臨床におけるジェノタイプ1のC型慢性肝疾患患者に対するハーボニー配合錠の有効 性と安全性を検討する。 |
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対 象: | ジェノタイプ1のC型慢性肝疾患患者1,461例(C型代償性肝硬変患者347例を含む)。 非代償性肝硬変(Child-Pugh B/C)、ベースラインのeGFR 30mL/min/1.73m2未満、 DCV+ASV既治療例は組み入れ除外とした。 |
方 法: | 多施設(19施設)共同後方視的試験。ハーボニー配合錠を1日1回1錠、12週間経口投与 した。 |
評価項目: | SVR12率、耐性関連変異(RAS)、臨床検査値(AFP、M2BPGi、eGFRなど)、有害事象 (CTCAE v4.0-JCOG)など |
安全性: | 有害事象は2.9%(43/1,461例)に認められた。主なものは頭痛0.6%、疲労0.5%、下痢0.3%であった。75歳未満と75歳以上で発現率に差はみられなかった。投与中止 は9例に認められた。中止理由は体調不良、不整脈または動悸が各2例、心不全、腹水 脳梗塞が各1例、コンプライアンス不良が2例であった。 |