周術期のCOVID-19感染対策が術後転帰を悪化させている可能性
意外なことに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として術前に隔離期間を設けた場合、患者の術後肺合併症リスクが上昇するというデータが報告された。英バーミンガム大学の主導により実施されている、COVID-19パンデミック下で手術が行われた患者の転帰に関する国際共同前向きコホート研究のデータを解析した結果であり、「Anaesthesia」に8月9日、論文が掲載された。筆頭著者である同大学のJoana Simoes氏らは、「得られた結果は、術前隔離を推奨している現行のガイドラインと矛盾している」と述べている。
この研究の解析対象は、世界114カ国で2020年10月に待機的手術を受けた患者9万6,454人。このうち2万6,948人(27.9%)が術前に隔離されていた。術後肺合併症は全体で1,947人(2.0%)に記録されており、そのうち227人(11.7%)に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染が確認された。隔離が行われた患者(隔離群)は高齢者が多いことのほかに、呼吸器系の基礎疾患の有病率が高く、SARS-CoV-2の感染者率が高い地域、および高所得国に居住する患者が多いという特徴があった。
術後肺合併症の粗発生率は、隔離群2.1%、非隔離群2.0%と、ほぼ同等だった。しかし交絡因子を調整すると、隔離群は非隔離群に比し肺合併症発生率が有意に高いことが示された〔調整オッズ比(aOR)1.20(95%信頼区間1.05~1.36)、P=0.005〕。なお、粗死亡率は同順に0.4%、0.8%であり、交絡因子調整後に有意な群間差は認められなかった〔aOR0.80(同0.62~1.02)、P=0.081〕。
サブグループ解析から、隔離期間が3日を超えた場合に術後肺合併症の有意なリスク上昇が認められ、隔離期間4~7日ではaOR1.25(同1.04~1.48)、8日以上ではaOR1.31(同1.11~1.55)だった。
この予想外の結果の背景について、本研究の中心メンバーの一人である同大学のAneel Bhangu氏は、「隔離によって患者の身体活動が減り、栄養状態は悪化し、かつ不安やうつが高まりやすい。すでに脆弱な状態にある患者では、それらが術後肺合併症のリスクを押し上げる可能性がある」と推察。また、近年、手術前のリハビリテーション(プレハビリテーション)が術後の良好な転帰につながるとのエビデンスが増えていることを指摘し、「隔離によりプレハビリテーションを十分行えず、転帰に悪影響を及ぼしたことも考えられる」とも述べている。
一方、本研究では、隔離による患者から他の患者や病院スタッフへのCOVID-19感染リスク抑制効果を評価していない。この点について著者らは、「術前隔離のメリット/デメリットを隔離される患者の転帰だけで評価するのではなく、病院内全体の感染者数の動向で評価すれば、有用性を確認できるかもしれない」と記している。(HealthDay News 2021年8月10日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://associationofanaesthetists-publications.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/anae.15560
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