SARS-CoV-2が体内で変異し免疫を回避している可能性
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染後には、体内でウイルスが変異してさまざまな部位に隠れてしまい、それがウイルスの完全な排除を困難にしているのかもしれない。このような考え方を支持する2報の論文が、いずれも「Nature Communications」に掲載された。それらのうち1報は、英ブリストル大学のKapil Gupta氏らの研究によるもので、同誌に2月14日掲載された。
SARS-CoV-2出現以降、次々に変異株が現れて、それらの変異株に対してはワクチンや一部の抗体治療の効果が限定的であることが明らかになっている。Gupta氏はこの機序について、「われわれの研究結果から、人の体内にいくつかの異なるウイルス変異株が存在する可能性のあることが分かった。SARS-CoV-2感染時に、免疫系はそれらの中で最も優勢なタイプを排除することに手間取られており、その結果、ウイルスを完全に取り除くことを困難にしていると考えられる」と解説する。
Gupta氏らの国際共同研究チームは、SARS-CoV-2ウイルスが同一の患者の体内で異なる変異を遂げて、免疫システムを逃れていることを発見した。また、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に存在する特定のポケット構造である「脂肪酸結合ポケット(fatty acid binding pocket;FABP)」の機能に焦点を当て、それがウイルスの拡散能力に不可欠な役割を果たしていると結論付けている。
この研究の主導者である同大学のImre Berger氏は、初期の変異株であるBriSデルタ(BriSΔ)の構造を詳細に検討し、その研究報告が1月11日、「Nature Communications」に掲載されている。同氏はその研究の結果から、「元のウイルスの構造は変化したが、われわれが発見したFABPは、依然として同じ場所に存在していた」と解説。BriSΔは患者から採取されたウイルスの全てではなく一部に見られる変異株だが、パンデミックの第一波を支配したウイルスよりも特定の細胞への親和性が高いように見えるとのことだ。
SARS-CoV-2に発見されたFABPが、どのように感染成立や感染の長期化に寄与しているのかという研究も進められている。Gupta氏らは、安全なウイルス粒子(virions)を作成し、それを用いた観察によって、ウイルスのスパイクタンパク質のFABPが脂肪酸と結合した後に、形を変えることを見いだした。その変化によって、免疫系から逃れやすくなると考えられる。
国際共同研究チームの一員で、2月14日に掲載された論文の筆頭著者であり、英国とドイツに拠点を置く研究機関に所属するOskar Staufer氏は、「特定の脂肪酸を認識するために特別に作られたポケットであるFABPは、SARS-CoV-2感染者の体内をウイルスにとって好都合の環境とし、それによってウイルスが非常に速く増殖することを可能にするようだ」と述べる。そして、「この現象は、オミクロン株を含むすべての変異株が、体内に長くとどまることの理由を説明可能だ」とも付け加えている。
また同氏は、FABPを標的とした治療法の可能性にも言及。「ウイルスがFABPというポケット構造を維持していることを逆手に取り、FABPをブロックするオーダーメイドの抗ウイルス分子を用いれば、ウイルスを一網打尽にできるというチャンスが見えてくる」と期待を語っている。(HealthDay News 2022年3月2日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.nature.com/articles/s41467-022-28446-x
https://www.nature.com/articles/s41467-021-27881-6
Press Release
http://www.bristol.ac.uk/news/2022/march/hidden-variants.html
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