「禁忌を含む注意事項等情報」等はDIをご参照ください。
入院患者におけるSARS-CoV-2感染症治療としてのベクルリーの有効性に関するシステマティックレビューとメタアナリシス:ガイドラインはエビデンスとともに進化しているか?
Bartoletti M, et al.: Clin Infect Dis. 2025:ciaf111. doi: 10.1093/cid/ciaf111. Epub ahead of print.
本試験はギリアド・サイエンシズ社より支援を受けています。本論文の著者の一部はギリアド・サイエンシズ社の社員です。
研究概要
目的: | COVID-19入院患者におけるベクルリーの有効性を評価するために、ランダム化比較試験(RCT)ならびに実臨床データ(RW)研究のシステマティックレビューならびにメタアナリシスを行い、ガイドラインにどのように反映されているかを検討する。 |
対象・方法: | 2019年1月から2023年12月までに発表された文献を対象に、SARS-CoV-2感染症で入院した患者におけるベクルリーの有効性を報告したランダム化比較試験および実臨床データを特定するために、MEDLINE、Embase、Cochrane Libraryのデータベースを用いて、COVID-19関連(“Coronavirus” “Coronavirus Infections”など)、研究デザイン関連(“Randomized Controlled Trial” “Clinical Trial”など)、介入関連(“Remdesivir” “RDV” “Veklury”など)のキーワードで検索した。システマティックレビューおよびメタアナリシスのための推奨報告項目(PRISMA)ガイドラインに従って実施し、特定された文献18,022件のうち対象外の患者群や不適切な研究デザイン等を除外した192件の文献を対象とした。ランダム化比較試験、実臨床研究、ならびに酸素供給量についてサブグループ解析を行った。 |
主要評価項目: | 28~30日間の死亡率、臨床的改善までの時間、臨床的回復までの時間、再入院率。 |
解析計画: | メタアナリシスへの適合性を評価するために、実現可能性評価を実施した。統計異質性テストでは、ベクルリー群と非ベクルリー群/プラセボ群/標準療法群とのペアワイズ比較を行い、I2値*1、コクランの異質性Q統計量*2およびp値を計算した。階層型ランダム効果メタ分析モデル*3を使用して、各エンドポイントにおけるベクルリーの有効性と効果の集計結果を生成した。ベクルリーと非ベクルリー/プラセボ/標準療法の効果を比較し、RW研究とRCTの変動性を区別して評価した。全体集団または酸素供給量による治療の影響を比較していない研究は除外した。治療群と非治療群のイベント数を使用して、二値型エンドポイントではオッズ比(OR)、連続型エンドポイントでは平均差(MD)を計算した。まず、酸素供給量による層別化をせずに全体集団に対するメタアナリシスを実施した。次に、酸素供給量に基づく加重平均を組み込んだ。集計結果は、ベクルリー治療期間とベースライン時の酸素供給量の割合で調整した。すべての解析は、RCTとRW研究を個別に考慮した。 |
*1 I2値:全体の変動のうち、どれが異質性(研究間のばらつき)によるものかを示す指標
*2 コクランの異質性Q統計量:メタアナリシスにおいて研究間の結果の異質性がどの程度存在するかを評価する
*3 階層型ランダム効果メタ分析モデル:データが複数のレベル(階層)に分かれている場合に、その構造を考慮して分析を行うためのモデル
本研究のまとめ
- ベクルリー群のほうが非ベクルリー/プラセボ/標準療法群と比較して死亡率を有意に低下させ(オッズ比(OR) 0.69、95%CI 0.55~0.86、p=0.001、名目上のp値) 、ベースライン時の酸素供給量に関係なく死亡率を有意に低下させました(酸素供給なし: OR 0.81、95%CI 0.75~0.88、低流量酸素: OR 0.71、95%CI 0.64~0.79、高流量酸素: OR 0.87、95%CI 0.83~0.91、侵襲的機械換気/ECMO: OR 0.78、95%CI 0.68~0.90)。
- ベクルリー群のほうが非ベクルリー/プラセボ/標準療法群と比較して臨床的改善までの時間を有意に短縮しました(平均差 -1.84、95%CI -2.81~-0.69、p=0.001、名目上のp値)。
- ベクルリー群と非ベクルリー/プラセボ/標準療法群を比較して、臨床的回復までの時間に対する有意な差はありませんでした(平均差 -0.31、95% CI -3.37~3.94)。
- ベクルリー群のほうが非ベクルリー/プラセボ/標準療法群と比較して、再入院率を有意に低下させました(OR 0.72、95%CI 0.64~0.81、p<0.001、名目上のp値) 。
- RW研究は、RCTでは十分に評価されていない特定の患者群(例:侵襲的機械換気を必要とする重症患者)に関するエビデンスギャップを埋める役割を果たしました。
本研究の限界
-
研究デザインの異質性
RCT(ランダム化比較試験)とRW(実臨床データ)研究のような異なる研究デザインを統合する際に、方法論的な困難が存在し、結果の解釈に影響を与える可能性があります。
-
報告されていない交絡因子の影響
酸素サポートの割合や治療期間などの主要な効果修飾因子で調整を行いましたが、未報告の交絡因子や報告の不一致が結果に影響を与えた可能性があります。
-
限られたデータによる分析
ベクルリーの他の有効性アウトカムや疾患重症度別のサブグループ解析は、研究数が少ないため十分に評価できなかった可能性があります。
-
研究開始時期や地域の影響を考慮していない
研究開始年、出版時期、地域などの要因はデータの不足により考慮されておらず、これらが結果に影響を与えた可能性があります。
-
観察研究のバイアスリスク
RW研究では中程度から低リスクのバイアスが確認されましたが、統計学的検出力の計算方法の詳細が報告されていない研究が多く、完全な評価が困難でした。
本論文では安全性評価がされていないため、ベクルリーの安全性情報については電子添文をご参照ください。
主要評価項目➊:20件の論文のメタアナリシスの結果 入院したCOVID-19患者の28~30日間の死亡率
- 20件の論文(4件のRCTと16件のRW研究)のメタアナリシスの結果、ベクルリー群のほうが非ベクルリー/プラセボ/標準療法群と比較して死亡率を有意に低下させました(オッズ比(OR) 0.69、95%CI 0.55~0.86、p=0.001、名目上のp値、階層型ランダム効果メタ分析モデル)。
- ランダム化比較試験(RCT)ならびに実臨床データ(RW)研究で層別化したサブグループ解析では、RCTにおいては有意な差はありませんでした(OR 0.90、95%CI 0.81~1.02、p=0.053、名目上のp値、階層型ランダム効果メタ分析モデル)が、RW研究においてはベクルリー群のほうが非ベクルリー/プラセボ/標準療法群と比較して死亡率を有意に低下させました(OR 0.60、95%CI 0.47~0.76、p<0.001、名目上のp値、階層型ランダム効果メタ分析モデル)。
- パンデミック初期に実施されたRCTでは、重症例が中心かつ、サンプル数が少なく統計的検出力が十分でなかった背景から有効性の結果にバラツキが見られますが、RW研究の蓄積により、疾患の様々な重症度や各変異株の流行期の違いも含め、ベクルリー群で生存率の改善効果が示されました。
*副腎皮質ステロイドはベクルリー投与群とベクルリー非投与群の両方で使用された。
**副腎皮質ステロイドはベクルリー投与を受けた全患者に使用された。プロットで報告されたオッズ比(OR)は、メタアナリシスから得られたものである。プロットで報告されたオッズ比(OR)は、元の研究で報告されたイベント数に基づくメタ解析から得られたものである。Solidarity試験では、死亡が28日目以前に起こったか、28日目以降に起こったかにかかわらず、院内死亡率を評価した。
Bartoletti M, et al.: Clin Infect Dis. 2025:ciaf111. doi: 10.1093/cid/ciaf111. Epub ahead of print.
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
本試験はギリアド・サイエンシズ社より支援を受けています。本論文の著者の一部はギリアド・サイエンシズ社の社員です。
入院時の酸素供給量別によるサブグループ解析:入院したCOVID-19患者の28~30日間の死亡率
- 入院時の酸素供給量別によるサブグループ解析では、すべての酸素供給量においてベクルリー群のほうが非ベクルリー/プラセボ/標準療法群と比較して死亡率を有意に低下させました(酸素供給なし: OR 0.81、95%CI 0.75~0.88、低流量酸素: OR 0.71、95%CI 0.64~0.79、高流量酸素: OR 0.87、95%CI 0.83~0.91、侵襲的機械換気/ECMO: OR 0.78、95%CI 0.68~0.90、階層型ランダム効果メタ分析モデル)。
§:名目上のp値
ECMO =体外式膜型人工肺
Bartoletti M, et al.: Clin Infect Dis. 2025:ciaf111. doi: 10.1093/cid/ciaf111. Epub ahead of print.より改変。
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
本試験はギリアド・サイエンシズ社より支援を受けています。本論文の著者の一部はギリアド・サイエンシズ社の社員です。
主要評価項目➋:臨床的改善※までの時間
- 臨床的改善は10件の個別の研究で報告され、そのうち6件(3件のRCTと3件のRW研究)でベクルリー群と非ベクルリー群の臨床的改善までの時間を比較しました。
- ベクルリー群のほうが非ベクルリー/プラセボ/標準療法群と比較して臨床的改善までの時間を有意に短縮しました(平均差 -1.84、95%CI -2.81~-0.69、p=0.001、名目上のp値、階層型ランダム効果メタ分析モデル) 。サブグループ解析のRCT(平均差 -2.98、95%CI -3.01~-1.09、p<0.001、名目上のp値、階層型ランダム効果メタ分析モデル)とRW研究(平均差 -2.20、95%CI -3.43~-0.67、p=0.002、名目上のp値、階層型ランダム効果メタ分析モデル)も、ベクルリー群のほうが非ベクルリー/プラセボ/標準療法群と比較して臨床的改善までの時間を有意に短縮しました。
*副腎皮質ステロイドはベクルリー投与群とベクルリー非投与群の両方で使用された。
注:平均差は、原著論文で報告されたイベント数に基づくメタアナリシスの結果。
※本論文における「clinical improvement(臨床的改善)」の定義として、以下のような基準が用いられていますが、詳細は各研究のデザインに依存します。
・WHOの8段階または6段階のスコアで2ポイント以上の改善、または患者が生存して退院した状態。
・NEWS(National Early Warning Score)が2以下になる、または29日以内の退院。
・その他の臨床的指標
Barxtoletti M, et al.: Clin Infect Dis. 2025:ciaf111. doi: 10.1093/cid/ciaf111. Epub ahead of print.
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
本試験はギリアド・サイエンシズ社より支援を受けています。本論文の著者の一部はギリアド・サイエンシズ社の社員です。
主要評価項目❸:臨床的回復*までの時間
- 臨床的回復は13件の個別の研究で報告され、そのうち3件(1件のRCTと2件のRW研究)でベクルリー群と非ベクルリー群の臨床的回復までの時間を比較評価しました。
- ベクルリー群と非ベクルリー/プラセボ/標準療法群を比較して、臨床的回復までの時間における有意な差はありませんでした(平均差 -0.31、95%CI -3.37~3.94、階層型ランダム効果メタ分析モデル)。
- 研究間で「臨床的回復」の定義が異なり、統一的な評価が困難であったため、結果に影響を与えた可能性があります。
*本論文における「clinical recovery(臨床的回復)」の定義として、以下のような基準が用いられていますが、詳細は各研究のデザインに依存します。
・WHOの8段階または6段階のスコアで患者が特定の低いカテゴリー(例:スコア1, 2, または3)に達した時点。
・患者が病院から退院するか、酸素療法が不要になった時点。
・研究ごとの具体的な基準
主要評価項目❹:再入院率
- 再入院を報告した9件のうち、4件(1件のRCTと3件のRW研究)で、30日以内の再入院リスクを評価しました。
- ベクルリー群のほうが非ベクルリー/プラセボ/標準療法群と比較して再入院率を有意に低下させました(OR 0.72、95%CI 0.64~0.81、p<0.001、名目上のp値、階層型ランダム効果メタ分析モデル) 。
*副腎皮質ステロイドはベクルリー投与群とベクルリー非投与群の両方で使用された。
注:オッズ比は、原著論文で報告されたイベント数に基づくメタアナリシスの結果。
Bartoletti M, et al.: Clin Infect Dis. 2025:ciaf111. doi: 10.1093/cid/ciaf111. Epub ahead of print.
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
本試験はギリアド・サイエンシズ社より支援を受けています。本論文の著者の一部はギリアド・サイエンシズ社の社員です。