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オミクロン株流行期にSARS‑CoV‑2感染で入院したCOPD患者の臨床転帰コホート研究(海外データ)
Ahuja N, et al.: Viruses 2025; 17: 1438. 本試験はギリアド・サイエンシズ社より支援を受けています。本論文の著者の一部はギリアド・サイエンシズ社の社員です。
研究概要
| 目的 | 慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有し、オミクロン株流行期にSARS‑CoV‑2感染で入院した成人患者において、入院早期のベクルリーとコルチコステロイド(CCS)の併用療法が、CCS単独療法と比べて臨床転帰が改善するかを検討した。 |
| 対象 | 2021年12月から2024年2月(オミクロン株流行期)にCOVID-19で入院した成人158,104人。 |
| 方法 | 米国の病院請求データベースであるPINC AI Healthcareを用いたレトロスペクティブ研究。調査期間は2021年12月~2024年2月(米国でこの期間に流行したSARS-CoV-2亜種に基づくオミクロン株優勢期)とし、入院後2日以内に、ベクルリーとCCSを開始した併用群とCCSのみを開始した単独群を比較した。 |
| 主要評価項目 | 入院最初の2日間から14日後および28日後の全死因による院内死亡率。 |
| 解析計画 | 時間‐イベント解析としてCox比例ハザードモデルを用い、14日・28日時点までの院内死亡の調整ハザード比(aHR)と95%信頼区間を推定した。病院レベルのクラスター効果は頑健なサンドイッチ分散推定量で補正し、年齢(連続変数)、入院月(オミクロン期の時期差を考慮)、入院時病棟(ICU対一般病棟)を調整した。ベースライン後に開始された治療(バリシチニブ、トシリズマブ、経口抗ウイルス薬、デキサメタゾン以外のCCS)は時間依存性共変量としてモデル化した。ベースライン時の酸素供給量別に層別化した。ベクルリー+CCS併用群とCCS単独群での潜在的交絡を調整するために逆確率重み付け(IPTW)を用いた。 |
| 本試験の限界 | 観察研究であるため、IPTWによる両群間のバランス調整後も測定不能あるいは未測定の交絡が残存し、結果に影響した可能性を否定できない。請求データとICDコードに基づく疾患・処置の定義には誤分類や過小評価のリスクがあり、重要な交絡因子(例:ワクチン接種歴、喫煙・社会経済要因、症状発現から治療開始までの時間、過去のCOVID‑19既往、COPD重症度や外来での基礎治療[吸入ステロイドなど])がデータベースに存在せず調整できない。酸素供給量はCOVID‑19の重症度だけでなくCOPDの病状に起因する可能性があり、重症度の代理指標としての層別化には限界がある。ベクルリーの腎機能に関する適応・禁忌の変遷により、特定の期間・患者群で投与選択にバイアスが生じ、群間差を過小または過大に推定した可能性もある。さらに、検査値や画像所見が利用できないため、ウイルス複製動態や炎症の客観的評価は行えず、院内死亡以外のアウトカム(再入院など)の完全な把握にも制約がある。 |
サマリー:オミクロン株流行期にSARS‑CoV‑2感染で入院したCOPD患者の臨床転帰 コルチコステロイドとベクルリーの併用療法とコルチコステロイド単独療法の比較(海外データ)
2021年12月から2024年2月(オミクロン株流行期)にCOVID-19で入院した成人158,104人を対象に、ベクルリーの有効性を検討したレトロスペクティブ研究において以下の結果が得られました。
- ベクルリー+CCS併用群はCCS単独群と比較して14日目の院内死亡率が有意に低下しました(aHR:0.74、95%CI:0.68-0.80、p<0.0001、名目上のp値、Cox比例ハザードモデル)。
- ベクルリー+CCS併用群はCCS単独群と比較して28日目の院内死亡率が有意に低下しました(aHR:0.76、95%CI:0.71-0.82、p<0.0001、名目上のp値、Cox比例ハザードモデル)。
- COVID-19の重症化リスク因子の1つであるCOPDを有しているCOVID-19患者において、CCS単独よりもベクルリーとCCSの併用療法の有効性が示唆されました。
COPD:慢性閉塞性肺疾患、CCS:コルチコステロイド、aHR:調整ハザード比、CI:信頼区間
COPDは重症化リスク因子の1つとされていますが、オミクロン株流行期においても、重症化リスクの高いCOVID-19患者に対するベクルリーの有効性が示唆された実臨床データと言えます。
ベースライン時の酸素供給量別によるサブグループ解析において、どの酸素供給量においてもベクルリー+CCS併用群はCCS単独群と比較して、14日目ならびに28日目の院内死亡率が有意に低下しました。
【14日目の院内死亡率】
- 酸素供給必要なし: aHR:0.75、95%CI:0.64-0.89、p=0.0012、名目上のp値、Cox比例ハザードモデル)
- 低流量酸素: aHR:0.71、95%CI:0.62-0.81、p<0.0001、名目上のp値、Cox比例ハザードモデル)
- 高流量酸素/非侵襲的換気: aHR:0.72、95%CI:0.63-0.83、p<0.0001、名目上のp値、Cox比例ハザードモデル)
- 侵襲的人工呼吸器/ECMO: aHR:0.70、95%CI:0.55-0.90、p=0.0048、名目上のp値、Cox比例ハザードモデル)
【28日目の院内死亡率】
- 酸素供給必要なし: aHR:0.80、95%CI:0.69-0.94、p=0.0047、名目上のp値、Cox比例ハザードモデル)
- 低流量酸素: aHR:0.72、95%CI:0.64-0.81、p<0.0001、名目上のp値、Cox比例ハザードモデル)
- 高流量酸素/非侵襲的換気: aHR:0.72、95%CI:0.65-0.81、p<0.0001、名目上のp値、Cox比例ハザードモデル)
- 侵襲的人工呼吸器/ECMO: aHR:0.78、95%CI:0.62-0.98、p=0.0322、名目上のp値、Cox比例ハザードモデル)
『診療の指針 2025』において、ベクルリーは中等症Ⅱ~重症までも濃い色で推奨されるようになりましたが、それを支持する実臨床データと言えます。
本論文では安全性評価がされていないため、
ベクルリーの安全性情報については電子添文をご参照ください。
厚労省『5学会による新型コロナウイルス感染症 診療の指針2025』におけるベクルリーの位置づけ
ベクルリーの推奨と適用
重症度別マネジメントのまとめ1
研究デザイン(海外データ)
- COVID-19入院患者を米国の病院請求データベースであるPINC AI Healthcareを用いたレトロスペクティブ研究。
- 組み入れならびに除外基準を適用した39,383人のデータのうち、入院から2日以内にベクルリーとCCSが投与された併用群、同じく入院から2日以内にCCSのみを投与された単独群に分類しました。
- 両群間の潜在的交絡を調整するために逆確率重み付け(IPTW)を実施しました。
主な組み入れ基準
18歳以上、COPDを有している、入院から2日以内にベクルリー + CCS 併用または CCS単独を開始
主な除外基準
COVID-19を主たる理由としない入院、データの不備、他の病院またはホスピスからの転院ならびに他の病院への転院、ベースライン期間中(入院開始2日間)の退院または死亡、ベースライン時に他治療を開始
COPD:慢性閉塞性肺疾患、CCS:コルチコステロイド
Ahuja N, et al.: Viruses 2025; 17: 1438. https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/より改変。本試験はギリアド・サイエンシズ社より支援を受けています。本論文の著者の一部はギリアド・サイエンシズ社の社員です。
患者背景(海外データ)
- 65歳以上の患者は、IPTW後において両群とも78%でした。
- COPD患者は、IPTW前・後にかかわらず両群とも100%でした。
- 心血管疾患を有していたのはCCS単独群で92.8%、ベクルリー+CCS併用群で92.7%、腎疾患を有していたのは両群とも30.3%でした(いずれもIPTW後)。
- ベースライン時に高流量酸素/非侵襲的換気を使用していたのはCCS単独群で25.2%、ベクルリー+CCS併用群で25.1%、侵襲的人工呼吸器/ECMOを使用していたのはCCS単独群で3.4%、ベクルリー+CCS併用群で3.4%でした(いずれもIPTW後)。
a:0.05未満および0.95超の極端な傾向スコアを除外した後、ECMO:体外式膜型人工肺、IPTW:逆確率重み付け、CCS:コルチコステロイド
COVID-19で入院したCOPD患者の14日目の院内死亡率(主要評価項目、サブグループ解析、海外データ)
- ベクルリー+CCS併用群はCCS単独群と比較して14日目の院内死亡率が有意に低下しました(aHR:0.74、95%CI:0.68-0.80、p<0.0001、名目上のp値、Cox比例ハザードモデル)。
年齢、入院月、入院時の病棟(ICU対一般病棟)、他のCOVID-19治療薬(バリシチニブ、トシリズマブ、経口抗ウイルス薬、デキサメタゾン以外のコルチコステロイド)による時間変化で調整した推定値を算出するためにCox比例ハザードモデルを用いた。
§:名目上のp値、COPD:慢性閉塞性肺疾患、IPTW:逆確率重み付け、aHR:調整ハザード比、CI:信頼区間、ECMO:体外式膜型人工肺
Ahuja N, et al.: Viruses 2025; 17: 1438. https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/。本試験はギリアド・サイエンシズ社より支援を受けています。本論文の著者の一部はギリアド・サイエンシズ社の社員です。
COVID-19で入院したCOPD患者の28日目の院内死亡率(主要評価項目、サブグループ解析、海外データ)
- ベクルリー+CCS併用群はCCS単独群と比較して28日目の院内死亡率が有意に低下しました(aHR:0.76、95%CI:0.71-0.82、p<0.0001、名目上のp値、Cox比例ハザードモデル)。
年齢、入院月、入院時の病棟(ICU対一般病棟)、他のCOVID-19治療薬(バリシチニブ、トシリズマブ、経口抗ウイルス薬、デキサメタゾン以外のコルチコステロイド)による時間変化で調整した推定値を算出するためにCox比例ハザードモデルを用いた。
§:名目上のp値、COPD:慢性閉塞性肺疾患、IPTW:逆確率重み付け、aHR:調整ハザード比、CI:信頼区間、ECMO:体外式膜型人工肺
Ahuja N, et al.: Viruses 2025; 17: 1438. https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/。本試験はギリアド・サイエンシズ社より支援を受けています。本論文の著者の一部はギリアド・サイエンシズ社の社員です。
